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インドネシアM&A株式譲渡契約表明保証

インドネシアM&Aの株式譲渡契約(SPA)— 押さえるべき条項と交渉の考え方

インドネシアM&Aの株式譲渡契約(SPA)で押さえるべき主要条項を整理します。対価・表明保証・特別補償・クロージング条件・補償の実効性の設計と交渉の考え方を解説します。

読了目安 9分

インドネシアM&Aにおける株式譲渡契約(SPA: Sale and Purchase Agreement)は、対象企業の株式を「買う取引そのもの」を定める契約です。対価の支払い方法、表明保証、特別補償、クロージング条件、誓約事項、補償の実効性、準拠法・紛争解決といった条項群を組み合わせることで、デューデリジェンス(DD)で把握したリスクを売り手・買い手のどちらがどこまで負担するかを取り決めます。合弁(JV)を選んだ場合に必要になる株主間契約(SHA)とは役割が異なり、両者の違いは次のとおりです。

SPAとSHAの違い — 取引の契約か、関係の契約か

SPAとSHAは、しばしば同じ場面で語られますが、対象とする関係が異なります。SPAは株式を「買う取引そのもの」を対象とし、クロージングをもって主要な義務のほとんどが履行され尽くす、期間の限られた契約です。これに対しSHAは、取引後も株主として関係が続くことを前提に、ガバナンスや出口条項など、継続的な株主間の権利義務を定める契約です。合弁(JV)でパートナーと共同で株式を保有する場合はSHAの設計が別途必要になり、その条項設計の考え方はインドネシア合弁(JV)の株主間契約(SHA)— 入れるべき条項と設計の考え方で整理しています。本記事では、100%買収か合弁かを問わず必要になる、SPA側の条項設計に絞って解説します。

SPAの主要条項群 — 何を定める契約か

SPAは多岐にわたる条項から構成されますが、実務上特に重要なのは次の七つの条項群です。それぞれ「何を定めるか」だけでなく「何を狙って設計するか」まで理解しておくことが、交渉の場で役立ちます。

①対価と価格調整 — 固定価格かクロージング時調整か

対価の定め方には大きく二つの設計があります。一つは、契約締結時点で価格を固定し、クロージングまでの間の財務状態の変動を原則として反映させない設計です。この場合、契約締結からクロージングまでの間に対象企業の資金や利益がどう扱われるかをあらかじめ取り決めておく必要があり、この設計は一般にロックドボックス(locked box)と呼ばれます。もう一つは、クロージング時点の純資産や運転資本の実績値に基づいて価格を事後的に調整する設計(completion accounts方式)です。ロックドボックス方式は交渉後の価格変動リスクを抑えられる一方、基準日からクロージングまでの間の価値毀損(リーケージ)をどう防ぐかが論点になり、クロージング時調整方式は実態に即した価格になりやすい一方、算定方法をめぐる事後的な争いが生じやすいという特徴があります。

②表明保証(R&W) — 範囲の交渉とDD発見事項との関係

表明保証は、対象企業の財務・法務・許認可・労務等について売り手が事実を表明し、その正確性を保証する条項です。DDで確認しきれなかったリスクを補う役割を持ち、DDの発見事項がどこまで表明保証の対象・除外事項に反映されるかが交渉の中心になります。DDでどのような領域を確認し、その結果をどう契約に反映させるかという考え方はインドネシアM&Aにおけるデューデリジェンスの実務で整理しています。

表明保証の範囲を交渉する際によく使われる調整手法に、知る限り限定(売り手が認識している事実の範囲に保証を限定する形)と、重要性限定(一定の金額・影響を下回る事項は表明保証違反として扱わない形)があります。買い手はできるだけ広く無限定の表明保証を求め、売り手はできるだけ限定を付けたいと考えるため、この二つの調整手法の適用範囲が交渉の焦点になりやすい部分です。

③特別補償(インデムニティ) — 個別リスクの手当て

特別補償(インデムニティ)は、一般的な表明保証とは別に、DDで特定された税務リスクや係争中の案件など、個別のリスクを名指しで手当てする条項です。表明保証が「一定の事実が真実であること」を包括的に保証するのに対し、特別補償は「特定のリスクが顕在化した場合にどちらが負担するか」をあらかじめ決めておく設計です。DDで発見された論点の重さに応じて、価格調整で対応するか、表明保証の範囲に含めるか、特別補償で個別に手当てするかを振り分ける判断が必要になります。

④クロージング条件(CP) — 許認可・名義整理・重要契約の同意取得

クロージング条件(CP: Conditions Precedent)は、クロージングを実行するために事前に満たされている必要がある条件です。代表的なものに、事業に必要な許認可の取得・維持の確認、株式名義の整理、主要取引先や金融機関からの契約上必要な同意の取得があります。特に対象企業の株式に名義株・ノミニーの疑いがある場合、実質株主名義への整理をクロージング条件に組み込むことで、問題を解消してから取引を実行する形にできます。この論点はインドネシアのノミニー(名義借り)企業買収リスクで詳しく取り上げています。クロージング条件は交渉の中で数が膨らみやすく、どの条件を本当に必須とするかを絞り込む姿勢が実務上重要です。

⑤誓約事項 — サイニングからクロージングまでの経営制限

誓約事項(covenants)は、契約締結(サイニング)からクロージングまでの間、対象企業の経営に一定の制限をかける条項です。通常業務の範囲を超える資産処分や大口の新規債務、重要な人事異動等について、買い手の事前同意を要件とすることが一般的です。この期間は買い手がまだ経営権を持たない一方、対象企業の状態がクロージング時の前提を左右するため、価値の毀損を防ぐ目的で設計されます。

⑥補償の実効性 — 上限・期間・エスクロー

表明保証や特別補償を定めても、実際に補償を受け取れる実効性が確保されていなければ意味がありません。実効性を左右する主な要素が、補償請求できる上限額(cap)、請求できる期間(サバイバル期間)、そして補償原資の確保方法です。補償原資の確保方法としては、対価の一部を一定期間留保するエスクロー(escrow)や価格留保(holdback)という手法が知られており、売り手の履行能力に不安がある場合や、税務・係争リスクなど発現までに時間を要する論点がある場合に検討されます。

⑦準拠法・紛争解決 — 仲裁という選択肢

SPAには準拠法と紛争解決手段も定めます。紛争解決の手段としては、インドネシアの裁判所のほか、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)等の第三国での仲裁機関を選ぶ設計も実務上の選択肢として存在します。どの手段を選ぶかは、執行可能性や手続きの中立性など複数の観点から検討される論点であり、案件ごとの事情によって適否が異なります。

条項グループを一覧で確認する

条項グループ 目的 代表的な論点
価格 対価の算定方法と支払い時点を明確にする ロックドボックス方式かクロージング時調整方式か、基準日からクロージングまでの価値毀損の扱い
表明保証・補償 DDで確認しきれなかったリスクを事後的に手当てする 表明保証の範囲(知る限り限定・重要性限定)、特別補償で個別に手当てする対象の選定
クロージング条件 リスクを解消してから取引を実行する仕組みを作る 許認可の取得・維持、名義整理、重要契約の同意取得のうちどれを必須条件とするか
実効性担保 補償請求が実際に機能する状態を確保する 上限額・サバイバル期間の設定、エスクローや価格留保の要否

交渉ではどう優先順位をつけるべきか

SPAの交渉では、すべての条項で自社に有利な形を勝ち取ろうとすると、交渉全体が長期化し、かえって重要な論点での譲歩を迫られかねません。現実的なのは、DDの発見事項の重さに応じて優先順位をつけることです。DDで重大な懸念が見つかった領域については表明保証・特別補償・クロージング条件を厚く設計し、懸念の小さい領域は標準的な条件で早期に合意する、という濃淡のつけ方が実務上のバランスとされています。全条項で勝とうとする姿勢は、相手方の警戒感を高め、本当に守りたい条項での交渉力をかえって弱める結果になりやすい点に注意が必要です。

インドネシア案件特有の注意

インドネシアでのSPAには、他国案件と共通する論点に加えて、いくつか特有の構造があります。一つは、二言語契約の存在という論点です。インドネシアでは契約の言語をめぐる制度上の論点があるとされ、実務上は英語版とインドネシア語版の双方を用意し、解釈が食い違った場合の優先言語をあらかじめ契約上定めておく対応が取られることが一般的です。もう一つは、名義株・許認可整理をクロージング条件として組み込む重要性が、他国案件に比べて相対的に高くなりやすい構造です。これは、株式名義や許認可の実態確認に時間を要するケースがあることに起因しており、DD段階での発見事項をクロージング条件に反映させる設計が特に重要になります。なお、準拠法・言語・執行可能性を含めインドネシア法の観点は、案件ごとの事情によって扱いが異なるため、現地弁護士の確認が必須です。

まとめ・次の一歩

インドネシアM&AにおけるSPAは、対価、表明保証、特別補償、クロージング条件、誓約事項、補償の実効性、準拠法・紛争解決という条項群を組み合わせて、DDで把握したリスクを売り手・買い手の間でどう分担するかを取り決める契約です。合弁を選んだ場合に必要になるSHAとはあわせて検討すべき契約であり、DDの発見事項をどちらの契約にどう反映させるかという判断が交渉の質を左右します。準拠法・言語・執行可能性を含めインドネシア法の観点は、契約作成の段階で現地弁護士の確認を得ることが必須です。

TNK&COは、インドネシアに現地拠点・駐在スタッフを置き、法務・会計等の現地パートナーネットワークを通じて、SPAの条項設計を含む日本企業の投資・M&Aをハンズオンで支援しています。SPAの条項設計についてご相談がある方は、お問い合わせはこちら

よくある質問

SPAとSHAはどう違いますか。
SPA(株式譲渡契約)は株式を売買する取引そのものを定める契約で、対価・表明保証・補償・クロージング条件など取引実行に関する条項が中心です。これに対しSHA(株主間契約)は、取引後も株主として関係が続くことを前提に、ガバナンスや出口条項など株主間の権利義務を定める契約です。買収が100%取得であればSHAは不要になりますが、合弁(JV)であれば両方の契約が必要になります。
表明保証とは何ですか。
表明保証(R&W: Representations and Warranties)とは、対象企業の財務状況・法的状態・許認可の有効性等について、売り手が買い手に対して一定の事実を表明し、その正確性を保証する条項です。表明した内容が事後的に事実と異なると判明した場合、買い手は補償を請求する根拠を得られます。デューデリジェンスで確認しきれなかったリスクを契約上手当てする役割を持ちます。
表明保証違反が見つかったらどうなりますか。
多くの場合、SPAに定めた補償条項に基づき、買い手は売り手に対して損害の補償を請求します。ただし請求には期間制限(サバイバル期間)や補償の上限額といった条件が設定されているのが一般的で、これらの条件を事前にどう設計しておくかが交渉の重要な論点になります。
クロージング条件(CP)とは何ですか。
クロージング条件(CP: Conditions Precedent)とは、株式譲渡を実行するために事前に満たされている必要がある条件を指します。重要な許認可の取得、株式名義の整理、主要契約先の同意取得などが典型例で、これらが満たされない限りクロージングを実行しない、という形で買い手のリスクを抑える役割を持ちます。

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