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インドネシアM&A紛争解決仲裁

インドネシア契約における紛争解決条項の設計 — 準拠法と仲裁の考え方

インドネシアのSPA・SHAに共通する紛争解決条項の設計を整理します。裁判か仲裁かの分岐、仲裁機関・仲裁地・準拠法の選び方、実務上の落とし穴を解説します。

読了目安 7分

紛争解決条項は、インドネシアでのSPA(株式譲渡契約)やSHA(株主間契約)の中でも締結時点では最も軽視されやすく、紛争が発生して初めて設計の巧拙が問われる条項です。裁判か仲裁かという手続きの選択、仲裁機関・仲裁地・言語、契約準拠法の選び方を、契約書作成の段階であらかじめ検討しておく必要があります。本記事では、SPA・SHAに共通するこの紛争解決条項の設計だけに絞って整理します。SPAの他の条項群はインドネシアM&Aの株式譲渡契約(SPA)— 押さえるべき条項と交渉の考え方、SHAの他の条項群はインドネシア合弁(JV)の株主間契約(SHA)— 入れるべき条項と設計の考え方で扱っています。

なぜ紛争解決条項は「使われないことを祈る保険」なのか

紛争解決条項は、多くの当事者にとって「発動されないことが望ましい条項」です。良好な関係が続いている間は意識されず、交渉の優先順位も下がりがちです。しかし紛争が発生した段階になると、この条項の設計次第で解決までの時間や労力が大きく左右されます。加えて、契約締結時点では効き目を検証できず紛争が起きて初めて巧拙が判明する点、発生してからでは事実上修正できない点という特有の難しさがあります。価格条項や表明保証条項であれば交渉の不備が価格や補償額としてすぐに表れますが、紛争解決条項の不備は何年も気づかれないまま残り続けることが少なくありません。だからこそ、締結時点での丁寧な設計が重要になります。

裁判か仲裁か — 最初の分岐は執行可能性の観点で考える

紛争解決条項の設計における最初の分岐点は、インドネシアの裁判所での訴訟によるか、仲裁によるかという選択です。手続きの速さや秘密保持といった要素に加え、最終的に得られた判断をどう強制執行するかという執行可能性が中心的な視点になります。

外国の裁判所が下した判決を執行する場合と、仲裁判断を執行する場合とでは、依拠する国際的な枠組みの構造が異なります。仲裁判断の承認・執行については、ニューヨーク条約と呼ばれる多国間の枠組みが存在するとされており、締約国間では一定の手続きに沿って承認・執行を求める道筋が用意されています。これに対し外国判決の執行は、こうした枠組みに必ずしも同様の形で依拠できるとは限らず、国や案件によって扱いが異なり得ます。この構造の違いが、クロスボーダー契約で仲裁が選択肢として広く検討される理由の一つとされています。

仲裁を選ぶ場合の設計要素

仲裁を選ぶ場合、条項に盛り込むべき設計要素はいくつかあります。「何を決めるか」だけでなく「何を狙って決めるか」の理解が重要です。

①仲裁機関 — 現地機関・域内機関・国際機関という類型

仲裁機関の選択肢は、大きく三つの類型に整理できます。インドネシア国内の仲裁機関、シンガポールなど域内に所在する仲裁機関、そしてそれ以外の国際的な仲裁機関です。どの類型を選ぶかは当事者の所在地や案件の性質によって適否が変わり、一律にどれが望ましいとは言えません。契約ごとの事情に応じて検討すべき論点です。

②仲裁地(seat) — 手続きを支配する法域を決める

仲裁地(seat of arbitration)は、実際に審理が行われる物理的な場所を必ずしも意味せず、仲裁手続きを法的に支配する法域を指す概念です。仲裁判断の取消しを求める手続きがどの国の裁判所で行われるか、どの国の仲裁法が適用されるかを左右するため、審理の利便性だけでなく、この法的な意味を理解した上で選ぶ必要があります。

③言語と仲裁人の数

仲裁で使用する言語をあらかじめ指定しておくことも欠かせません。指定を怠ると、手続き開始後に言語をめぐる争いが生じかねません。仲裁人の数については、単独仲裁人か三名の合議体かを定めます。単独の方が迅速で簡素になりやすい一方、三名の合議体は判断の安定性という点で好まれる場合があり、案件の規模に応じて選ぶ論点です。

準拠法の選択 — 契約準拠法と紛争解決手続を分けて考える

紛争解決条項の設計では、契約全体に適用される準拠法と、紛争解決手続そのものに適用される法(仲裁地の仲裁法など)は、別の法域を選ぶことも可能な、分離して検討すべき要素です。当事者が契約準拠法として外国法を選択していても、インドネシア国内で履行される事項の一部には、当事者の合意にかかわらず現地法が強制的に適用される領域が存在するとされています。この範囲がどこまで及ぶかは案件の性質によって異なり、契約ドラフトの段階で専門家に確認すべき論点です。

SPA・SHA・JV契約における実務上の考慮

紛争解決条項の設計は、契約の種類によって考慮すべき点が変わります。SPAのように取引実行後は当事者間の関係が基本的に終了する契約では、執行対象となる資産や当事者の所在地を踏まえた設計が重要です。一方、SHAのように取引後も株主として関係が継続する契約では、デッドロック条項との関係を意識する必要があります。デッドロック解消手続きには協議のエスカレーションや買取請求が組み込まれることが一般的で、それでも残る紛争をどの手段で解決するかという位置づけで紛争解決条項を設計することになります。デッドロック条項の設計自体はインドネシア合弁(JV)の株主間契約(SHA)— 入れるべき条項と設計の考え方で取り上げています。

設計要素を一覧で確認する

設計要素 決めるべき内容 検討の視点
裁判/仲裁の選択 インドネシアの裁判所によるか、仲裁によるか 判断の執行可能性、手続きの中立性、秘密保持の要否
仲裁機関 現地機関・域内機関・国際機関のいずれを選ぶか 当事者の所在地、案件の性質、手続きへの信頼性
仲裁地(seat) 仲裁手続きを法的に支配する法域をどこにするか 仲裁判断の取消手続きの管轄、適用される仲裁法
言語 仲裁手続きで使用する言語をあらかじめ指定するか 未指定による手続き開始後の争いを防げるか
準拠法 契約準拠法と紛争解決手続に適用される法を分けて検討するか 現地法が強制的に適用される領域の有無

よくある落とし穴

紛争解決条項でよく見られる不備には、共通したパターンがあります。一つは、裁判と仲裁の双方を並記し、どちらが優先するか読み取れない条項です。こうした条項は、紛争が起きた際に手続き選択そのものをめぐる争いを新たに生み出します。もう一つは、仲裁機関の名称を正確に記載していない、あるいは存在しない機関名を記載してしまう不備です。機関名が不正確だと、指定した機関が管轄を認めず、手続き自体が始められない事態にもつながりかねません。さらに、言語の指定漏れや仲裁人の数の未設定といった不備も少なくありません。いずれも内容面の交渉以前に、条項として機能するかどうかという基本の問題です。

検討の進め方 — ドラフト段階で確認すべき事項

紛争解決条項をドラフトする段階では、次の事項を現地法務専門家に確認しながら詰めていくことが実務上のアプローチです。裁判と仲裁のどちらを選ぶべきかとその執行可能性の見通し、仲裁機関・仲裁地・言語・仲裁人の数という具体的な設計、外国法を準拠法とした場合に現地法が強制的に適用される領域の有無、そして相手方の資産や事業の所在地です。紛争が起きるまで適否を検証する機会がないため、ドラフト段階での確認が特に重要です。

まとめ・次の一歩

紛争解決条項は、SPA・SHAのいずれにおいても、紛争が発生して初めて設計の巧拙が判明する「保険」のような条項です。裁判か仲裁かという最初の分岐、仲裁機関・仲裁地・言語・仲裁人の数、契約準拠法と紛争解決手続の分離という要素を、締結前の段階で具体的に検討しておく必要があります。準拠法・仲裁地の選択を含め、現地法の強制適用の範囲や執行可能性は案件ごとに異なるため、契約ドラフトの段階で現地弁護士の確認を得ることが必須です。

TNK&COは、インドネシアに現地拠点・駐在スタッフを置き、法務・会計等の現地パートナーネットワークを通じて、紛争解決条項の設計を含む日本企業の投資・M&Aをハンズオンで支援しています。契約の紛争解決条項についてご相談がある方は、お問い合わせはこちら

よくある質問

契約書で紛争解決条項をどう位置づけるべきですか。
紛争解決条項は、良好な関係が続いている間は意識されにくい一方、実際に紛争が発生した段階で初めてその設計の巧拙が問われる条項です。他の条項と異なり事後的に修正することが難しいため、契約締結前の段階で丁寧に検討しておく必要があります。
裁判と仲裁はどちらが望ましいですか。
一律にどちらが望ましいとは言えず、判断の執行可能性、手続きの中立性、秘密保持の要否などを踏まえて案件ごとに検討する論点です。判決と仲裁判断とでは国際的な執行の枠組みの構造が異なるとされている点を理解した上で選ぶ必要があります。
仲裁機関はどのように選べばよいですか。
仲裁機関の選択肢は、インドネシア国内の機関、シンガポールなど域内の機関、その他の国際的な機関という類型に整理できます。当事者の所在地や案件の性質によって適否が変わるため、特定の機関を一律に推奨できるものではなく、案件ごとに検討すべき論点です。
準拠法はどのように選べばよいですか。
契約全体に適用される準拠法と、紛争解決手続そのものに適用される法は分けて検討する必要があります。当事者が外国法を準拠法として選んでいても、インドネシア国内で履行される事項の一部には現地法が強制的に適用される領域があるとされており、専門家に確認すべき論点です。

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