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インドネシア企業の機関設計 — Direksiと監督機関Komisarisの権限分担

インドネシア会社法の二層機関構造(Direksi/Dewan Komisaris)と、日本企業が買収・出資時に押さえるべき代表権・責任・実務論点を整理します。

読了目安 8分

インドネシアの株式会社(PT)は、業務執行を担うDireksi(取締役会)と、その業務執行を監督するDewan Komisaris(コミサリス会)という、互いに独立した二つの機関を法律上必ず置く二層構造を採ります。これは日本の取締役会・監査役(会)とも、社外取締役中心の欧米型一層制(ワンティア)ボードとも発想が異なる制度で、Direksiが会社を代表し対外的な意思決定と業務執行を行う一方、Dewan Komisarisは業務執行そのものを行わず、助言と監督に権限を限定されます。日本企業がインドネシアで現地法人を持つ、あるいは買収する際には、この構造の機能と実務上の論点を理解しておく必要があります。

Direksiの「業務執行」とDewan Komisarisの「監督」— 何が含まれ、何が含まれないか

Direksiは、日常的な業務執行に加えて、対外的に会社を代表する権限を持つ機関です。契約の締結、資産の処分、対外的な意思表示など、会社を法的に拘束する行為はDireksiの権限に属します。

これに対しDewan Komisarisは、Direksiを監督し必要に応じて助言する機関です。監督には、方針や重要な意思決定を検証し意見を述べること、定款が定める一定の行為への事前承認が含まれますが、業務執行そのものを代わって行うことは含まれません。日本の監査役が会計監査・業務監査という限定的な役割を担うのに対し、Dewan Komisarisは経営全般への監督権限を持つ点で似て非なる制度であり、監督機関が別に独立して存在する点がインドネシア法の特徴です。定款で定めれば重要事項への事前承認権限を持たせることもできますが、監督権限の延長にとどまり、業務執行権限そのものが移るわけではありません。

選任・解任とAnggaran Dasar(定款) — RUPSの権限

Direksi・Dewan Komisarisのメンバーは、いずれも株主総会(RUPS: Rapat Umum Pemegang Saham)の決議によって選任・解任されます。両機関の構成員数、任期、代表権の定め方は定款(Anggaran Dasar)に記載され、その内容が会社の機関設計の土台になります。

定款を変更する際には、RUPSでの決議に加えて、公証人による証書化、当局への届出や登記といった一連の手続きが必要になります。この手続きの詳細な要件は改正され得るため、実際の変更時には現地の公証人・弁護士に最新の要件を確認することをお勧めします。設立時に定款をどう設計するかという入口の論点は、PT PMA(外資現地法人)設立の基本手順で整理しています。

Direksiの代表権 — 誰の署名で会社が拘束されるか

Direksiが複数名選任されている場合、会社を代表する権限の設計には、各取締役が単独で代表できる単独代表と、複数の連署を要する共同代表の考え方があります。単独代表は意思決定・契約締結のスピードを優先する設計、共同代表は一人の判断で会社が拘束されるリスクを抑える設計であり、どちらを採るかは定款で明確に定めておく必要があります。

日本本社が現地法人の実質的なコントロールを保とうとする場合、手段は一つの契約に集約されるものではなく、定款・社内の権限委譲規程・株主間契約という三つの階層で役割分担して設計するのが実務上の考え方です。拘束力の性質と対象がそれぞれ異なるため、下表のように整理して使い分けます。

階層 何を定めるか 効力の性質
定款(Anggaran Dasar) 代表権の基本設計(単独/共同代表)、両機関の構成・権限 登記され対外公示される会社法上の基本ルール
社内規程(権限委譲規程等) 金額・案件類型ごとの決裁権限、承認フロー 対外的な代表権は変えない社内向けの運用ルール
株主間契約(SHA) 取締役指名権、重要事項への拒否権 第三者への対抗力が限定的な株主間の合意

対外的な取引の安全性に直結するのは定款上の代表権の定めであり、社内規程は内部統制、株主間契約は株主間の合意にとどまります。株主間契約でどのような条項を具体的に設計すべきかは、インドネシア合弁(JV)の株主間契約(SHA)で入れるべき条項で扱っており、本記事が機関そのものの法的な権限構造を扱うのに対し、あちらは株主間の合意でその権限をどう縛るかという契約設計に焦点を当てています。

買収・出資時の実務論点 — 役員入替えと権限の即時掌握

買収や出資の実行(クロージング)では、対象会社の役員構成をどう入れ替えるかが重要な論点になります。買い手が経営の主導権を握る買収であれば、クロージングと同時にDireksiの一部または全部を交代させ、代表権を持つ取締役を新たに選任することが一般的です。この選任・交代もRUPS決議と登記変更を要するため、クロージングのスケジュールに組み込んで準備します。

日本人をDireksiまたはDewan Komisarisとして送り込む場合、その人物が現地で就労する以上、就労許可の論点が連動します。役員としての地位と、現地で業務を行うために必要な許可は別の論点であり、必要な許可の種類と申請の順序は日本人駐在員のビザ・就労許可(KITAS・RPTKA)で整理しています。

もう一つ重要なのが、退任する前任役員の在任中の行為に対する責任の整理です。インドネシアの実務では、RUPSの決議によって退任役員の責任を解除する、アクィット・エ・デシャルジュ(acquit et decharge)という考え方が用いられます。この決議を得ないまま役員を交代させると、前任者の行為に起因する責任問題が後に浮上した際、整理が曖昧になるおそれがあります。対外的な署名権限を新しいDireksiに即座に移す実務は、買収後の経営体制を立て直す作業の出発点でもあり、その立て直し局面全体の進め方はインドネシアM&AのPMI(買収後統合)で扱っています。本記事が機関の法的な構造と権限の所在を扱うのに対し、あちらは買収後の経営をどう立て直すかという運用面に焦点を当てています。

役員個人の責任という発想

インドネシア会社法の下では、DireksiもDewan Komisarisも善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負うと一般に理解されており、その職務執行に故意または過失があり会社や第三者に損害を与えた場合には、役員個人が責任を問われ得るという発想があります。これは日本の会社法における役員の善管注意義務・忠実義務と同じ方向性の考え方です。

実務上注意したいのが、日本人を名目上のDireksiやDewan Komisarisとして就任させ、実際の職務には深く関与させない運用です。名目的な地位であっても責任は形式的な関与度にかかわらず及び得るため、実質を伴わない就任は想定外の責任リスクにつながります。誰を送り込むかは、名義ではなく実際の職務内容を踏まえて判断すべき論点です。

現地アドバイザーに確認すべきこと

対象会社の機関設計については、以下の点を順に確認することをお勧めします。

  • 定款(Anggaran Dasar)の現行版と、直近の改正内容・改正日
  • 登記上のDireksi・Dewan Komisarisの構成と各人の役職・任期
  • 代表権の定め(単独代表か共同代表か、代表できる行為の範囲)
  • RUPSの決議要件(事項ごとの定足数・議決要件の違い)
  • 既存の権限委譲規程・稟議規程の有無と内容
  • 過去の役員交代時にRUPSでの責任解除決議が取られているか

これらはDD(デューデリジェンス)の一環としても確認すべき事項であり、機関設計の理解を欠いたまま代表権や責任の所在を議論することは避けるべきです。

まとめ・次の一歩

インドネシアの二層機関構造は、Direksiの業務執行・代表権とDewan Komisarisの監督という役割分担を土台に、定款・社内規程・株主間契約という三つの階層でコントロールを設計する仕組みです。買収・出資の場面では、役員入替えと代表権の掌握、前任役員の責任解除、日本人役員の就労許可という論点が連動するため、機関設計の基本構造を理解した上で個別の手続きに臨むことが重要です。なお、会社法上の手続き要件は改正され得るため、実際の対応は現地の弁護士・専門家に最新の内容をご確認ください。

TNK&COは、インドネシアに現地拠点・駐在スタッフを置き、法務・会計等の現地パートナーネットワークを通じて日本企業の投資・M&Aをハンズオンで支援しています。機関設計や役員体制についてご相談がある方は、お問い合わせください。

よくある質問

DireksiとDewan Komisarisの違いは何ですか。
Direksiは会社の業務執行と対外的な代表を担う機関で、Dewan Komisarisはその業務執行を監督し助言する機関です。両者は上下関係にある一つの機関の内部区分ではなく、法律上それぞれ独立した機関として並立します。
Dewan Komisarisは会社を代表して契約を締結できますか。
原則としてできません。会社を代表し対外的な意思表示を行う権限はDireksiに属しており、Dewan Komisarisの役割は監督と助言に限定されているためです。ただし定款で一定の重要事項についてDewan Komisarisの事前承認を要件とすることは可能です。
買収時、前任役員の在任中の行為について新しい経営陣が責任を負うことはありますか。
前任役員個人の行為に起因する責任は、本来は前任者本人の問題です。ただし、RUPSでの適切な責任解除(アクィット・エ・デシャルジュ)の手続きが取られていないと、後になって整理が曖昧になるおそれがあるため、役員交代の際にこの手続きを確認しておくことが実務上重要です。
日本人を名目上の取締役として就任させるだけでも問題になりますか。
名目的な就任であっても、法律上は役員としての善管注意義務や責任の対象になり得ます。実際の職務に関与しないまま地位だけを引き受けることは、本人にとって想定外の責任リスクにつながるため、慎重に検討することをお勧めします。

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